大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和52年(ネ)67号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人両名の負担とする。

事実

一、申立

(一)  控訴人両名

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人広子に対して金一六五万一九〇六円及び内金一五〇万一七三三円に対する昭和五〇年三月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を、控訴人美〓に対して金八〇万五二七三円及び内金七三万二〇六七円に対する前同日から支払済まで前同率の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

仮執行の宣言

(二)  被控訴人

主文同旨

二、主張及び証拠

次のとおり付加する外、原判決の該当欄記載のとおりであるからこれを引用する。

(一)  控訴人両名の主張

1、自動車損害賠償保障法(以下単に法という)第一九条は民法第七二四条の特則と解すべきものであり、同条の時効期間の起算日を被害者が損害及び加害者を知つた時としていることは法第一九条についても適用されるものであり、本件の損害は継続的に発生するものであつて、控訴人らが保険金額五〇〇万円を上廻る損害賠償請求権の取得を確知したのは、別件判決確定によるから、右確定日を時効期間の起算日とすべきものである。

2、控訴人広子に関しては後遺障害補償の請求をしているので、これにより全体の請求権につき時効中断があつたことになる。

3、法第一五条の加害者請求権を加害者の被害者に対する損害賠償の支払にかからせたことは加害者、被害者間の慣れ合い防止にあり、本件のように右賠償請求権が判決により確定し、加害者請求権につき差押転付命令が発せられている場合には、加害者の支払はなくても、被害者保護の見地から保険金請求を認めるべきである。

4、仮に以上の主張が認められないときは債権者代位により請求する。すなわち、控訴人らは訴外橋本アキノに対して別件判決により確定した損害賠償請求権を有するところ橋本は被控訴人に対して法第一五条による三四八万〇四六〇円の保険金債権を有しているだけで無資力である。そこで控訴人らは橋本に代位して本訴請求をする。

(二)  被控訴人の主張

1、法第一六条第一項のいわゆる直接請求権は被害者保護のために認められ保有者の損害賠償責任が発生したとき取得するとともに法第一九条により二年の時効期間がはじまるもので、これにつき民法第七二四条の適用があるとしても損害の程度や額を具体的に知ることを要しないものである。

2、後遺障害による補償請求は受傷当時予想し得ないことに属するので、その発生を知つたときから消滅時効の期間が進行するが、この請求により全体の請求権につき時効中断が生ずるものとはいえない。

3、加害者請求権は、責任保険であることから、被保険者の損害を填補する性質のものであつて、加害者の支払を前提としてのみ生ずることは疑の余地がない。

4、債権者代位に関しては、被害者の直接請求を認めていない任意保険とは異なり、前3記載の加害者請求権の性質から許さるべきものでない。

理由

一、成立に争いない甲第一号証の一ないし三、五、六によれば、控訴人ら主張のとおり、控訴人らの訴外橋本アキノに対する自動車交通事故による損害賠償請求訴訟の認容判決が確定し、右債務名義の執行力ある正本により橋本の被控訴人に対する法第一五条のいわゆる加害者請求権(橋本が被控訴人と同法による保険契約を締結していることは当事者間に争いがない)に対する差押、転付命令の発令(訴外古谷照子に関するもので、転付額は控訴人広子につき一一五万五八六六円、控訴人美〓につき五七万七九三三円である)、送達を得たことが認められる。

二、控訴人らの橋本に対する給付訴訟が勝訴確定しても、その既判力が及ぶ根拠のない被控訴人に対しては、右確定判決を債務名義として橋本の被控訴人に対する債権につき強制執行をしたときは別として、右確定判決において認容された損害賠償債権を、その存在を認めていない被控訴人との間で、直ちに実体上存在するものとして主張することはできない。

本訴において控訴人らは前記確定判決の存在を主張、立証しただけで、控訴人らが橋本に対する損害賠償債権の取得を主張し得るものと解しているようであるが、前段説示のように採用しがたいものである。しかし、控訴人らは本訴で、前記確定判決を債務名義として、橋本の被控訴人に対する保険金請求権(加害者請求権)につき転付命令を得たことによる請求もしているので、便宜一括し、前記損害賠償債権取得を被控訴人に主張し得るものとして、控訴人らの本訴各請求の当否を検討することにする。

三、控訴人らの直接請求権は時効により消滅し、加害者請求権についての転付命令は請求権取得の効力を生じないと判断するもので、その理由は、次のとおり付加する外、原判決理由欄二、三に説示するところと同一である(ただし、八枚目表六行から裏一行までを削る)からこれを援用し、当審における予備的主張である債権者代位による請求に関しては直接請求の認められる自動車損害賠償責任保険においては右請求は許されないものと解するのが相当であり、又加害者請求権の発生していない本件では代位して行使すべき債権が存在しない訳であつて、失当である。

(一)  交通事故による損害が長期に亘るとき、これに関する賠償請求権の消滅時効の期間を事故日から一括して進行すると取扱うことは相当でない場合も考えられるが、本件においては前掲甲第一号証の一により、損害発生は交通事故のあつた日から約半年間のものと認められ、事故当日に損害を知つたとするのが相当である。

(二)  交通事故による後遺障害は、一般に、事故当時に予想し得ないもので(本件も該当する)、これによる損害賠償請求権と他のものとは性質を異にし、後遺障害に関する請求権の行使により他の損害による請求権の時効期間を中断する効果を生ずるとはいえない。

四、以上の次第で、控訴人両名の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当であるので本件控訴を棄却することとし、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例